3つのケーキ
朝、自転車に乗ってケーキを買いに行った。外に出た瞬間「今日はいい冬の日だ」と思った。空気がピンとしていてでも日差しが暖かい。去年の今頃、同じような秋晴れの日に、婚姻届を出しに行ったことを思い出す。
シックで背筋がしゃんとしているケーキたち。無花果のショートケーキと、山羊のチーズケーキと、ティラミス。「ひとつずつじゃさみしいし、ふたつずつじゃ多いよね」と話しみっつになった。帰りは歩いて橋を2つ渡って、隅田川がキラキラしているのを見る。
大学生のころ冷やかしで占いに行った。地元の民家でおばあさんがやっているところ。友人とカフェで今日行っていいかと電話すると「はい夕方ならいいですよ」と回答された。入れ違いに年配の女性が出てきて、他にもお客がいることに安心した。
「今後の人生、山もなければ谷もないよ」と言われたことを覚えている。あのときは無鉄砲な大学生だったので、そう言われて少しだけがっかりした。
今日みたいな幸福な日が山でないならなんというのだろう。ケーキを食べて満足そうに笑う夫になった人のことを見ながら思う。
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雨はコーラがのめない
友人に東京に住んでいてどこで遊ぶのか聞かれ、出てきた答えは「運動も兼ねて家の近くを散歩して飲み物を買って帰る」という言葉だった。おばあちゃんかよと言われて本当にそうだと思う。飲み物というのはしゃれついたコーヒーだったりビールだったりするが。
今週も仕事が忙しかったが、カレーを作り置きしておいたのと鍋の具材と餃子を買っておいたので完璧な自炊だった。餃子スープ的にすると野菜もとれ満足度が非常に高い。餃子は成城石井へ夜中に散歩して買ったやつ。
PCR検査の結果を待ちながらバタバタと荷造りをする。冷蔵庫の中身をほとんど使い切ることができた。
夫がしばらく宮崎にまた行っているので、わたしはわたしで実家に帰る。これから一ヶ月くらい離れて暮らすのにすでにさみしい。でも家族に会えるのがたのしみ。姉が臨月を無事迎え、里帰り出産の準備をするとのことで、久しぶりに初期メンバー(?)で集まることができる。新居から車で15分の里帰り。これを名古屋に向かう新幹線の中で書いている。
439文字
どうしようもなくなった夜のこと
ヤーズフレックスを毎日ちまちま飲んで、それでようやく抑えられていた感情が、なぜかまたやってきた。夫のなんでもない一言に悲しくなって家を出る。こうやって町をさまようのは何度目のことだ。自分でもなぜこんな気持ちになるのかふしぎだが頭にモヤがかかったように何も考えられない。自分の気持ちが理解できずコントロールできない。しかもあわてて出たからメガネを忘れた。
途中、せっかくならカフェにいこうかとか、せっかくならレイトショーでも観ようかとか、気晴らしになることを考えてみる。でも近所には夜営業のカフェはなく、メガネを忘れた。踏んだり蹴ったりだ。
仕方なく大きな市営公園まで歩く。夏休み最後の土日らしく、手持ち花火をたのしむ親子や学生グループがいる。そんなかなんで私はこんなとこに一人でいるんだろうなと思いながらベンチに座る。
そのまま2時間もぼーっとしたのにまだ気持ちの整理が追いつかない。が、街灯の明かりも消され行く場所もないのでしぶしぶ帰った。夫の顔も見ずお風呂に直行したらなぜか涙があふれてきて、しゃくりあげながら髪を洗う。私は泣きたかったのか、そうなのか?と思いながらも止まらない。
浴室から出ても止まらないので、濡れた髪のまま座っていると夫が来てくれ、気にかけながら髪を乾かしてくれた。「分け目がわからない」と言って貞子状態のおでこをなでまわしてくるので、ここでようやくフっと笑った。
なんだ。
なんなんだもう。
夫もたぶんそんな気持ちだろう。申し訳ない。
ホルモンに振り回されながら人は生きるしかないのか。超低容量ピルを服薬はじめてからかなり頻度は減ったが、生理のたびに家出をするしかないのか。まずは今日は寝なさいと夫に諭される。この人を一番大切にしたいのに、一番つらく当たってしまう。
753文字
水400 ナンプラー大さじ1.5
タイトルはポトフのレシピ。ナンプラーだけでバシッとポトフになってびっくりした。夫は食べて「これおでんじゃ?」と言ってたたしかに。
夏休み初日から大掃除。味な副音声と佐伯ポインティを交互に聞く。ずっと気になっていた汚れを掃除できてすっきり。今日はクローゼットの中を整理した。あとはどこかで本棚の整理をする。えらすぎる… と思う反面やっぱり帰省したかったなあ。わたしの代わりに整理した本を送る予定になってしまった。
せっかくかわいくネイルしたが掃除のせいではげてしまう。出費が落ち着いたらジェルネイルの機械かおうかな。
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かわいらしく、前向きに ♩=104
そもそも夫の良さは、好きになった時点で「些細なことでぶれないこと」だったんだ。一緒に生活するようになって、PMSで大荒れのときも、この人は精神が安定していてありがたいと思ってた。でも最近になってわかった、好きになるところは嫌だと思うところと表裏一体だ。夫を本気で怒っても数分後には何事もなかったようにのらりくらりと仕事に戻る。わたしが差別や戦争に怒り狂っててもいまいちピンときてない顔で仕事を続ける。自分の考えの甘さに笑いつつ夫にその秘訣を聞くと「死ぬこと以外はかすり傷だから…」とのこと。それわたしが大嫌いな人の言葉だぜ。
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